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「地域の力」が育てる緑のカーテン

 

いのちの尊さと強さ、児童が体感
~東京・板橋区立高島第五小学校・菊本るり子先生に聞きました

安易なスタートは失敗の元

 この数年、エコな活動として緑のカーテンを始める人が増え、とくに今年は原発事故で節電が社会全体に求められているので、緑のカーテンに大きな関心が寄せられています。環境にいいし、涼しいし、節電にもなるので、学校に取り入れたいという考える教育関係者は少なくないでしょう。でも、実を言うと、学校で緑のカーテンを始めるのには、それなりの覚悟が必要です。

緑のカーテンを学校教育に取り入れている菊本るり子先生
緑のカーテンを学校教育に取り入れている菊本るり子先生

 今年度から学習指導要領が施行され、教育現場は新しい学習内容への対応に追われています。日々の授業に加え学校行事もあり、時間的なゆとりがありません。そこに毎日の世話が必要な植物の栽培が入ってくるのですから、担当する教師にとっては大きな負担になってしまいます。緑のカーテンに取り組み始めたころの私自身がそうでしたが、園芸には全くの素人という教師が多く、土づくりや肥料のやり方一つわかりません。相談しようにも、周りに相手がいません。先生のやる気一つで何とかなるだろうという安易なスタートは、教師を追い込むだけで、よい学習を展開することが難しくなります。


地域の応援あってこそ

学校で緑のカーテンに取り組むためには、保護者や地域の協力が不可欠になります。いろいろな人たちの参加によって、教師と子どもたちが無理なく楽しく取り組める状況をつくりだすことが大切です。いろいろな方とかかわることは、日ごろ外部の人との接触が少ない子どもたちにとって、人と人とのかかわりの大切さを学ぶ機会にもなります。

10メートル以上に伸びた、高島第五小学校の見事な緑のカーテン
10メートル以上に伸びた、高島第五小学校の見事な緑のカーテン

 私の勤務する高島第五小学校では、緑のカーテンを始めるにあたって、保護者に協力を呼びかけたところ、予想以上の方がサポート隊として参加してくださいました。土づくりから、夏休み期間中の水やり、追肥などのお世話、ネット外しまで助けていただいています。子どもたちのために何かしたい、きっかけがあれば応援したいと思っている保護者や地域、そして企業の人もたくさんいらっしゃいます。こういう外部の力をどう取り込むか、これが緑のカーテンに無理なく取り組むための重要なポイントです。


緑のカーテンは節電装置ではない

 緑のカーテンを節電の装置として学校に導入しようという考えは間違っています。植物ですから、うまく育つ年もあればそうでない年もありますし、学校全体を覆うのは困難です。子どもの学習活動として位置付けることにより、身近な自然にいのちを感じる、いのちの価値を学ぶ、いとおしむ、という体験を通じて子どもたちは成長していきます。

 前任校で緑のカーテンに取り組み始めた2003年、子どもたちのがんばりに反して、植物は十分育たず、大失敗に終わりました。しかし子どもたちは「楽しかったからいいよ。でも、来年の6年生には成功してほしいから」と失敗の原因と成功の秘訣を調べ、ハンドブックにまとめて次の学年に託して卒業していきました。次の年の6年生はハンドブックから多くのことを学び、すばらしい緑のカーテンを育て上げました。失敗からも多くの学びを得ることができるのです。


子どもとのかかわりがポイント

 大切なのは子どもたちがかかわること。お金をかけたどんなに立派な緑のカーテンでも、かかわりがなければ、子どもたちにとって緑のカーテンは遠い存在で、ただの物にすぎません。逆に子どもが密接にかかわれるならば、豊かな体験と学びの機会とすることができます。

 私の学校では、6年生が総合学習の時間で「緑のカーテン大作戦」に1年かけて取り組み、土づくりの段階から子どもたちは栽培に参加します。多くの子どもたちは「土は汚いもの「虫は気持ち悪いもの」と思っています。しかし、土の成り立ちや、わずかな量の土の中に数億もの微生物が存在することを知ると、土は命の住処となります。また、ミミズが土の中で果たしている役割を知ると、ミミズは一転ヒーローになります。また、子どもたちは、お気に入りの苗に「ジョン君」「ヘッチーちゃん」などと名前をつけ、毎日語りかけながらその生長を応援します。

 10月になると、まだ青々しているヘチマの蔓を切り、カーテンを校舎から取り外しますが、これが子どもたちには、つらい体験なんですね。「まだ生きているのになぜ切るのか」とたずねる子どももいます。

 そこで、1ヶ月ぐらいで全て枯れてしまうこと、今取り外した蔓は堆肥にして、何年か後に肥料としてここに戻ってくる、という形で命がつながっていくことを伝えると、子どもたちは「ありがとう」「ごめんね」「さよなら・・・」と声をかけながら、太い蔓の根元を切っていきます。物言わぬ植物にも命を感じる。深いかかわりができればこそ、生まれる感情です。これは子どもたちの精神形成にとても貴重な経験です。


圧倒的な生命力を実感

 緑のカーテンで学べるものは、なんといっても生命への畏敬の念だと思います。空へ空へと10メートル以上も伸びていく緑のカーテンを地面近くから見上げて、子どもたちはこんな小さな種からあんなに大きく育つんだと、植物の生命力を実感します。通常の栽培活動では得ることのできない感動です。

 また、収穫したゴーヤの実は給食の「ゴーヤチャンプルー」に使ったり、調理実習を行ったりします。これは子どもたちの楽しみになっています。採れたての新鮮なゴーヤは苦みも少なく、低学年の子どもたちも「おいしい!」と大喜び。それを自らの舌で実感できるのは、食育の観点からも貴重です。

音楽教室の窓を覆うゴーヤ。かなり収穫したが、まだ実が成っている
音楽教室の窓を覆うゴーヤ。かなり収穫したが、まだ実が成っている

 総合学習では、緑のカーテンを切り口に、外部からゲストティーチャーも来ていただいて、土と肥料、雨水の利用、暑さの仕組みと涼しく住まうための工夫、地球温暖化、ヒートアイランド現象など、さまざまなことを学びます。また、理科の授業では一枚の葉に袋をかぶせ、ストローを使って呼気を入れ、二酸化炭素でいっぱいにします。袋の中の二酸化炭素と酸素濃度を測定し、1時間後にもう一度測定します。そうすると、光合成によって二酸化炭素が減り、酸素が増えることが実感的に学習できます。緑のカーテンが涼しいだけでなく、地球温暖化の防止にも役立っていることを知ると、子どもたちは目を輝かせます。

 さらに、知識と体感が結びつくことにより、学びはいっそう深く子どもたちの心に浸透します。校庭の真ん中と、もみじの木の下、そして緑のカーテンの内側に立って、体で熱を感じさせてみます。その体感の違いを、ある子どもが「校庭は暑かった。もみじの木の下は涼しかったけれど『もわ~っ!』として、緑のカーテンの内側は『す~っ!』とした!」と表現しました。緑のカーテンの内側の涼しい場所で、この『もわ~っ!』と『す~っ!』の違いについて話し合いました。「『もわ~!』と感じたのは、校庭や校舎からの放射熱だね!蒸散作用で温度の下がった葉っぱが外からの放射熱を防いで、校舎があったまるのも防いで、その葉っぱの隙間から風が吹いてくるのが『す~っ!』なんだ!」。一週間ほど前、東京都市大学の宿谷昌則先生から学んだ知識が、今体で感じた温度と結びついた瞬間でした。

4階の音楽教室の緑のカーテン。青い空とのコントラストが鮮やか。
4階の音楽教室の緑のカーテン。青い空とのコントラストが鮮やか。

 空に向かって伸びていく植物とともに、成長していく子どもたち。ここに、学習としての緑のカーテンの大きな価値があるのです。

 菊本るり子先生のブログ「緑のカーテンのある暮らし」はこちらからご覧ください

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